巡礼の前に
時期の選択
私たちの生きる世界では個人の幸せよりも、全体的な生産性が優先されがちなシステムですが、できる限り自分に合った選択をしてください。南半球や韓国からの巡礼者は、多くの場合、冬の巡礼を余儀なくされることが多いようです。必ずしも悪いことばかりではありませんが、寒さや雪、嵐などが問題となる可能性は確実に高くなります。また、防寒着を多く持参しなければならない、非常に日が短い、洗濯物の乾きが悪い、アルベルゲの大半は営業していない、なども考慮に入れなければなりません。
反対に夏は、休暇期間であり、基本的に暑い日が続き、学生や聖職者などで混雑し、多くの人が求める静かな落ち着いた雰囲気が損なわれることがあります。公営のアルベルゲの予約をするにも、その日のおすすめメニューを食べるのにも苦労し、サンティアゴでは言うまでも無く、大聖堂に入るにも長蛇の列に並ばなければならない、など、何処に行っても混雑していることでしょう。
では、いつなら良い時期なのでしょう?5月と9月はすでにハイシーズンになっていますが、景観の良さ、需要の低さなど、あらゆる意味で最もお勧めできるのは、中間の時期です。
時期に関しては、それぞれのルートの気候との兼ね合いも考慮しなければなりません。例えば、イベリア半島では、雨の多い北部、大陸性気候の中央高原(冬は非常に寒くて乾燥した日が続き、夏は暑い日が続く)、6月から10月にかけて気温が非常に高くなる南部とでは非常に大きな差があります。さらに、気候変動の影響がますます大きくなっており、天気予報を難しくしています。つまり、何をするにしても宝くじを引くのと同じで、100%の保証はないということです。
旅程の選択
ここには考えられないほど多くのバリエーションが存在します。
まず、時間的な制約のために数回に分けてチャレンジする場合を除いてサンティアゴを含まない旅程はお勧めできません。サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路を歩くと言いつつ、ガリシアから離れた任意のルートを1週間歩くだけ、というのが流行になっていますが、これは、現代の不条理の1つと言えます。フランスでは、巡礼手帳やホタテ貝をバックパックに入れ、自国のピレネー山脈までしか歩かない人が何千人もいます。サンティアゴに行くかどうか尋ねると、「いや、いつかは行くかもしれない」という答えが返ってきます。それで巡礼者と言えるでしょうか。答えはノーです。巡礼者を装ったハイカーに過ぎません。
私たちは、あたかも自分たちが市場にいて、クライアントが自由に好きなものを選べるかのように振る舞いたくありません。現在、標識が設置されている道の中には、主要な巡礼路ではないもの、誰かがどこかで通ったかもしれない古い道、派生路、合流など、科学的根拠がなく単なる仮説に過ぎない道も多く存在します。
初めて挑戦される方には、サンティアゴ巡礼の真髄といえる、フランス人の道をお勧めします。このルートは、本などの情報が最も多く、サービスの充実度などあらゆる面で、より「Jacobeo」の雰囲気を味わうことができます。さらに、このルートは、西へと向かう果てしない道のりの中に学習の段階がよくわかるルートでもあります。
その他の歴史的な長距離ルートには、北の道、フランスの道(サン・アドリアントンネル、サルバドールなど)、銀の道、ポルトガルの道(内陸ルート)などがあり、そのいずれも派生路があります。カタルーニャ・ルートやエブロ・ルート、歴史的にはそれほど重要ではなかったマドリッド・ルート、あるいはバスタン・ルートなど、記録が整っているいくつかのルートがフランスの道に収束しています。地中海から銀の道に向かって、アンダルシアの各首都を起点とするレバンテ、ラナ、モザラビなどのルートがあり、その他にもマイナーな合流がありますが、それらは過去においても現在でも重要なルートではありません。中距離のルートには、間違いなく最古の、最も山深いプリミティボの道や、ポンフェラダから始まる冬の道があります。また、イギリス人の道は、北欧や中央ヨーロッパの様々な国から海路でやってくる巡礼者たちが利用していたルートであるため、航海の部分がない現在では、その分短距離になっています。
期間を決める
確保できている時間に応じて、各行程で想定している平均歩行距離(20~30kmの範囲)をもとに計算してスタート地点を決めます。つまり、1週間あれば、スタート地点と往復時間(想定以上に時間がかかることもあります)を差し引いて、もしものため、またはサンティアゴ観光に1日を残すと、120~180kmのルートをこなすことが可能になります。半月あれば、300~400kmの中距離の旅程を組むことができるということです。もし幸運にも1ヶ月以上の期間があれば、リスボンからのポルトガルの道、フランス国境からのフランスの道または北の道、さらに数日あればセビリアからの銀の道など、600~900kmの長距離ルートを踏破することができるでしょう。
もし、例にならってフィステーラやムシアまで行きたいのであれば、さらに4日間の余裕が必要です。
つまり、1週間で全行程を終えようと思ったら(この定義は明らかに最近の一般的な基準です)イギリス人の道を選択し、半月ならプリミティボの道や冬の道を選択すればよいということです。または、長い距離を分割するのも1つの手です。オ・セブレイロからフランスの道を1週間、サアグンやレオンから2週間、という計算になります。
アドバイス:巡礼に費やす時間は多いほど良いです。最後には、短かかった、もっと続いてほしいと感じるものです。
徒歩にするか自転車にするか
この質問の答えはもちろん、徒歩です。これは、個人的な意見または気まぐれな意見ではなく、実績に基づく意見です。自転車が全体の25%以上を占めていた時代ははるか昔のことです。2019年には、絶対数でも割合でも減少し、5.6%となり、ほとんどゼロに近づいています。
自転車での巡礼は、歩いた場合とはまったく異なる点があります。スピードが速すぎる、スポーツとしての側面が大きい、他の仲間との日常的な交流がない、最初は歩行者と同じルートをたどるつもりが、たいていの場合変更される、公営のアルベルゲでは、徒歩の人が優先される、スピードや交通量の面での危険性、などです。さらに、両方の方法を共存させるのが難しく、多くの区間でサイクリスト専用のルートがどんどん作られており、特にガリシアはユーロヴェロに認定されています。二輪車の通行が永久に禁止される区間もでてくるかもしれません。
当ウェブサイトは「ANDANTES」(歩く人)という名前です。これは、両方の方法を幾度となく試した結果、徒歩であってこそ本当の巡礼だと確信しているからです。とはいえ、自転車に乗れば、観光や移動に使える時間は格段に増えます。
単独かそれともグループか
これは多くの人にとって、特に初めての人には大きなジレンマでしょう。巡礼がどんなものかわかってしまえば、これは余計な質問です。というのも、5月から11月初旬までのシーズン中はもちろんのこと、それ以外の時期でも、最も混雑するルートには必ず人がいます。ペアや小グループの人たちと仲良くなるのは難しいことではありません。ただし、1日のうちの一部または終日1人で歩きたいという人もいることでしょう。したがって、安全性や、単に同行者がほしいという理由で、巡礼の情熱を共有する誰かを出発前に見つけようとするのは良い考えとは言えません。なぜなら、家族や友人のような間柄でも、そのような濃密な共同生活ではのちのち問題が生じる可能性があるからです。
同棲や結婚など、将来を真剣に考えているカップルにとって、カミノ・デ・サンティアゴの長い道のりに勝る試練はないという冗談があるほどです。乗り越えることができれば、2人の未来は安心です。
ですから、相手も行きたいと思っていない限り、必死になって一緒に行こうと説得したり、SNSで日程をメッセージするなど、相手探しはやめましょう。実際の道中で、気の合う人たちと出会う方が安全ですし、ほとんどの巡礼者が自分と同じような人たちであることに驚くことでしょう。
もちろん、カップル、家族、子供連れ、友達同士でも巡礼を楽しむことはできますが、1人で行くことが一番充実していることも事実です。それは、日常生活のあらゆる要素から自分を切り離し、この体験の醍醐味である他人に心を開くためのレシピでもあるからです。
面白みに欠ける巡礼は、旗の後ろをみんなで歩くタイプの企画旅行です。巡礼者のイメージとはかけ離れた、何でも用意された団体のツアーでは、資格のある優れたガイドが同行してくれたとしても、従来型の観光を巡礼路でおこなっているだけに過ぎず、他の観光地とは異なる巡礼路ではこの方式は合わないのです。実質的に何も学ばずに帰ることになるでしょう。
ペット連れ
もちろん、ペットと一緒に歩くことはできます。ここでは犬の場合を想定してお話します。(他のペットは該当しないかもしれません)。ペット連れの場合、少々話がややこしくなるとまずお伝えしておきます。
まず、犬の書類を揃え、予防接種を受け、最新の予防接種カードを携帯し、リードをつけ、危険とされる犬種の場合は口輪をつけ、さらにダニやノミ対策の首輪をつける、などが求められます。公園や郊外での散歩には慣れていると思いますが、巡礼路では犬が放し飼いにされている小さな町や、家畜や狩猟場が多くあり、動物が放し飼いにされていて、時には攻撃的な場合もあります。
しかし、一番の問題は宿泊施設です。ペット連れが許可されている施設を選択しなければならないため、該当する宿泊施設は減ります。さらに、相部屋の場合は室内へ連れていくことはできず中庭や庭につないでおくことが多いので、不慣れな場所に警戒して犬が吠えてしまい、ご近所迷惑になってしまう可能性があります。個室の宿泊施設であっても許可されていないことが多く、旅費が高くなってしまうことは間違いありません。
とはいえ、こんな大冒険に同行できることを、あなたと同じかそれ以上にペットも喜んでくれるでしょうし、最後には犬用の巡礼証明書をもらうことができます。Asociación Protectora de Animales en el Caminoや様々なブログで、より具体的な情報を提供しています。犬の受け入れが可能なアルベルゲのガイドはこちらかです。
トレーニング
冗談のような話ですが、トレーニングは事前、途中、事後、いつでも可能です。
出発前に最低限のトレーニングをしていれば、それに越したことはありません。特に歩き慣れていない人は、靴を柔らかくしておくことがとても重要です。また、バックパックが体に合うようにうまく調整できているかを確かめたり、重量をよく計算したりして、ただきついだけの旅にならないようにしておくとよいでしょう。
旅の途中でのトレーニングは最も一般的です。事前にトレーニングする時間がなかった場合は、実際の巡礼で適応していかなければなりません。ですから、最初の数日間はゆっくりとしたペースで短めに、体力と自信がついてきたら徐々に距離を伸ばしていくような計画をお勧めします。
そして歩いた後は、運動して体が温まり、興奮状態になるものです。アスリートと同じように、激しい運動の後には少し筋肉をリラックスさせることをお勧めします。フル回転から一気に動きを止めることで、体が硬くならないようにしましょう。次の巡礼路に備えて、体調を整えておく必要もあります。
携帯電話
1ヶ月以内の巡礼であれば、ヨーロッパでは2017年からローミング料金が廃止されているので、通常の通話料金とほぼ変わりません。
EU圏外からお越しの方で、データダウンロードなどで料金が上昇するのを避けるには、スペインおよび/またはポルトガルでチャージ可能なプリペイドSIMカードを購入するのが最善の方法です。この方法では、手頃な料金のデータ通信で国内通話が可能です(5GBで約30分通話ができるものは約25ユーロ、35~40ユーロで通話無制限のものもあります)。
国際電話の問題は、最近ではWi-Fiがあれば世界中で無料で通話やビデオ通話ができる WhatsAppやLINE などの普及で解決しました。また、宿泊施設やカフェ、バー、レストランなどで普及している無料のWi-Fiを利用すれば、インターネット閲覧料金を節約することができます。また、Wi-Fiネットワークに接続されたコンピューターを自由に使える自治体の図書館や文化センターなどを利用するという選択肢もあります。
ガイドブック
ドイツのヘルマン・ケーニヒ(15~16世紀)やイタリアのドメニコ・ラッフィ(17世紀)などの作家が書いた旅行ガイドが広く読まれるようになったように、ガイドブックは、印刷機の誕生以来、巡礼者とともに発行されてきました。
現在もペーパー版を発行している著名なガイドブックがいくつかあり、通常は言語圏ごとに出版され、1年おきまたは2年おき(一般的)に更新されています。更新が間に合っていない場合、役にたたなくなります。特に実用的な情報は常に変化するものですが、旅程計画となると最新でなければなりません。
デジタルの記録の場合、不測の事態で使えなくなるかもしれません。メモを取ることができる紙版のガイドブックは、巡礼の良いお土産にもなることでしょう。
スペイン語で一番売れているガイドブックといえば、Anaya Touring (アナヤ・ツーリング)のものです。2004年以降、フランス人の道は毎年、その他のルートは2年ごとに発行されています。このウェブサイトを補完するものとして、また、旅の記念に巡礼手帳や巡礼証明書と一緒に保管しておくのも良いでしょう。
巡礼路アプリ
紙版ガイドブックと同じ内容を、携帯電話に入れて持ち歩けるので、重くないのが利点で、通常、選択した巡礼路に関する情報 が盛り込まれています。しかし、テクノロジー企業の世界には、定期的に巡礼路を歩いてデータを更新し、巡礼の現状確認に力を注いでいる人はほとんどいません。そのため、多くのアプリは紙版と同じかそれ以上に情報が古い場合がありますので、ダウンロードする前に製品をよく確認してください。
ANDANTESのウェブサイトは、参照用アプリという形で、確認済みの旅程やサービスの各情報には更新日を記載し、誰にも誤解を与えないことを目指しています。こうすることで、他にはない確実さが保証されています。
医療保険
欧州連合(EU)加盟国の国籍の方は、欧州健康保険カードをお持ちであれば、スペインおよびポルトガルの公的医療サービス(保健所、外来診療所、救急医療、病院)を受診できます。旅行期間中に期限が切れないよう、忘れずに申請してください。
EU圏外の国から来られる方は、健康管理のために海外旅行保険に加入することをお勧めします。何も起こらないことがほとんどですし、小さな怪我やトラブルであれば、何も聞かれずに対応してもらえるのが普通ですが、不愉快な思いをしないためにも、事前に準備しておくことをお勧めします。
保険には、最も基本的なものから、より多くの補償を備えたものまで、さまざまなプランがありますが、重要なポイントは、怪我や病気、事故などによる医療費、入院費、薬剤費を適切な額で補償しているかどうかです。多くの場合、旅行の変更やキャンセルの際の振替や補償も含まれています。
出発前に自国で保険に加入することもできますが、スペインでは巡礼者専用の保険が販売されており、1週間、半月、1ヶ月などの期間に対応しています。最も経済的な保険だと、6,000ユーロまでの補償が可能で、保険料は期間に応じて10~25ユーロとなっています。
チケットの手配
もし、巡礼に参加する日程がすでに決まっているのであれば、寝ている場合ではありません。すぐに旅行の予約をしてください。特に飛行機で移動する場合は、日程が近づくにつれて値段が上がっていきますので、注意が必要です。巡礼者の中には、計算した日数でルートを完歩できない可能性を考え、帰りの予定を空けておく人もいます(費用は割高になります)。自分でも驚くような結果になる可能性もあります。予期せぬ災難と言う意味ではなく、予定していたよりも早く進んでしまうことで最後の日程が何日か余ってしまい、サンティアゴを訪れたり、予定になかったフィステラやムシア、さらにはガリシアの他の地域に移動したりすることになるかもしれません。
荷造り
このアドバイスは、あくまで田舎でのハイキングをしたことがない人向けのものです。サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路では、いくらかの特殊な点を除けば、荷造りに関する注意事項は他のルートと同じで、自分に何が必要かは本人が一番わかっているはずですから。
荷造りに関しては、建築家ルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエの標語がぴったりです。その標語とは、「少ないほど良し」です。なぜなら、軽量であるほど快適さが増し、最初がシンプルであるほど、後々楽になるからです。
巡礼者が荷物の重量で失敗することはよくあることです。暇さえあればバックパックを整理して、数キロの荷物を家に送ったり(国際郵便では大きな出費)、サンティアゴの郵便局止めで送ったりする巡礼者が後を絶ちません。だからこそ、この問題に少しでも関心を持っていただきたいのです。
目安としては、体重の10%を超えないように、つまり、体重60kgなら6kg、80kgなら8kgを超えないようにしましょう。ですが本当により重要なのは、体力と生活習慣です。
では、必要不可欠なもの(基本的な物や重要な物)、好みやバックパックの大きさに応じて持って行く物、念のために入れておくけれども通常は巡礼ではいつも必要というわけではない物などを見てみましょう。
-最も重要:バックパックと履物
歩く日数にもよりますが、35~45リットルのバックパックであれば十分です。ブランド品のバックパックを買う必要はありません。手頃な価格で質の良いバックパックもありますが、まずは試してみて、しっくりくるかどうかを確認してください。身長、体質、体重に合わせて、自分の体に合ったものを選びましょう。今では、フレームがしっかりしていて、ストラップや背中にパッドが入っている、腰周りにフィットする、汗をかいても乾きやすい、などの機能をほとんどの製品が満たしています。また、取り外し可能な防水バッグ・ケース付きであることも非常に重要です。ない場合は、別途購入して、すぐに使える状態にしておいてください。ビーチサンダル、レインコート、水、食料、ガイドブックやノート、日焼け止め、帽子など、緊急に必要な物がすぐにとりだせるよう、外側に引っ掛けておくと非常に便利です。
荷物を詰める時は、重い物は底に、背中につくように入れますが、硬い物や角ばった物は避けます。履物、きれいな服と汚れた服、羽織るもの、タオルや洗面用具、食べ物などを種類ごとに分けて、すべてのものを防水性のある袋(取り扱い時に音がしない硬めのビニール製のもので、ある程度の通気性があるもの)に入れて整理します。
履物は、道路の状態と時期によって決まります。ハイカットブーツは登山者の定番ブーツで、足首をしっかり支えて悪路でも足首の捻挫などを防ぐことができます。また、水や泥にも最も強いです。しかし、暑い時期には足が暑くなりすぎてしまうことがあり、硬さが不快な場合も考えられます。ミディアムカットブーツは、巡礼に適しており、多くの人が利用しています。途中でブーツに飽きて他の靴に履き替えた場合、バックパックに入れて運ぶには、かなりの重量がありますので注意してください。
ブーツの代わりに、ハイキングシューズやスニーカーなども適しています。ローカットで足首が痛くなりにくく、春から秋にかけては十分な性能を発揮します。アプローチシューズは、履き心地の良さ、軽さ、通気性の良さが大きな特徴で、耐久性や安定性、保護性などブーツの特性も兼ね備えています。ほとんどの道路がそうですが、普通の道路では完璧な選択肢です。
巡礼路でよく見かけるスポーツ用のスニーカーは、単発的な使用や、巡礼路で酷使されるのとは異なる他のスポーツでの使用に適した設計になっており、長時間の歩行に必要な補強やソールのグリップ力、通気性が備わっていないため、全くお勧めできません。
ガリシア地方のように、アスファルトやコンクリート、あるいは土で固められた部分が多く、簡単な区間では、トレッキングサンダルを選ぶ巡礼者が増えています。トレッキングサンダルの問題点は、ソールとソックスの間に砂や小石が入り込んでしまうのが不快な点や、必要以上に足を止めてしまうだけでなく、水ぶくれのリスクがある点です。ブーツやシューズの他にサンダルを持っておくことをお勧めしています。各行程の終盤で道路や街中を歩くことが多い日に適しています。
履物には出費を惜しまず、品質とかかとのフィット感を重視し、足のむくみを防ぐために、普段のサイズより1サイズ上(1.5サイズ上でもよい)のものをお勧めします。お店で専門家にアドバイスしてもらいましょう。
靴底は、エアークッションがしっかりしている、グリップ力のあるデザインでなければなりません。例をあげるとVibram(ビブラム)ですが、他にも良い製品があります。足が濡れてしまうと水ぶくれができるのは確実なので、防水効果を高めるためにゴアテックスなどの素材が一般的に使われています。これらの素材は通気性がありますが、100%ではないので、雨の少ない季節に歩くのであれば必ず必要というわけではありません。つま先やかかとなど、足の弱い部分の耐久性を観察しましょう。そして、巡礼に出発する前に、その靴を少なくとも60~100km(3~4行程分の距離)は履いて慣らしておく必要があることを忘れないでください。
また、シャワーを浴びるときや宿泊施設内を歩くときは、感染予防にビーチサンダルやゴム製のサンダルが必要です。その後の散歩にこのサンダルを履いていくのは、結局は足が汚れてしまうので、あまりお勧めできません。
また、アルベルゲ内や散歩用に、バスク地方の代表的な靴であるエスパルト草を底に使ったエスパドリーユを使う人もいます。これは足に優しく、環境にも優しいのですが、履物を4足も持ち歩くのはさすがに無理かもしれません。
-必需品とその他の持ち物
まずは、重要なのにあまりそう見られていない靴下から始めましょう。靴と同じように、季節に応じて選びます。靴下にも出費を惜しまず、色々な製品の中から、高性能かつ機能性の高い素材のものを選びましょう。
靴下は通常、合成素材(ポリアミド、ポリエステル、COOLMAX、ライクラ、ナイロン、アクリル)と天然素材(テンセル、ウール)を混合した複数層(2層または3層)で構成されています。冬用の場合は、抗菌性と保温性に優れたメリノウールが異なる割合で使われています。綿は水分を吸収するため、休息やちょっとした散歩などを除いては好ましくありません。
摩擦を防ぐために、縫い目が目立たないものにしましょう。つま先とかかとの補強もチェックしましょう。かかとはクッション性も大切です。靴下のサイズは、しわにならないもの、ふくらはぎを圧迫しない物(不具合として非常によくある)であることに注意して、適切なサイズを選んでください。薄手の靴下を2枚重ね履きするような自己流の方法は避けましょう。足が擦れたり、蒸れてしまいます。水ぶくれを予防するために、汗で皮膚が蒸れないようにするのが重要です。
下着やパンティ、ブリーフについては、綿素材は擦れが少なく汗を吸収する機能が高く、スポーツ用でない合成繊維は逆の性質を持っています。すでに話題にあがりましたが、擦れは大問題です。特に暑い時期で汗をたくさんかいたときに最も影響を受けるのは股間です。そのためには、縫い目がでこぼこしたものを避け、伸縮に優れたライクラ製やポリエステル製のレギンスなど、通気性が良く、洗濯してもすぐに乾く生地のものを選びましょう。ポリウレタンを使用していて体にフィットする縫い目のない製品は、このような条件を満たしており、上にズボンを重ねずに着用することができます。
ズボンについては、天候に応じて長いものと短いもの1着ずつ用意するか、コンバーチブルタイプのものを用意すると良いでしょう。いくつかポケットがあり、速乾性のある素材であることを確認してください。宿泊施設や都市部では、ミディアムまたはショート丈のジャージを用意するのも悪くありません。この話題については、お勧めすることがたくさんあります。
もう1つの必須アイテムはTシャツです。素材はポリエステルなど、速乾性のある合成繊維が良いでしょう。人によっては、首周りを保護できるハイキング用のシャツの方がきちんとして見えるという点で好む人もいます。寝るときは歩く時のTシャツやパンツとは違うものが良い場合は、別途、夜用の着替えを用意してください。
防寒着としては、スウェットやトレッキングウェアなど、季節に応じて薄手のものや暖かいものを用意し、乾課している間や洗濯する時の替えとして1枚予備を用意します。冬に歩く場合には、フリース素材のウェアも必要です。
雨具は、夏場はレインコートやウィンドブレーカーでも良いですが、最も一般的なのは、バックパックまで覆うことができるケープやポンチョです。撥水性のある繊維で、重くないものがよいでしょう。内部でたくさん汗をかいてしまって、雨に濡れたのと変わらない状態になってしまう製品もありますので、しっかり選んでください。また、軽くて非常に実用的な防水オーバーパンツや、脚部のみを保護し、ソックスからしみてブーツの内部が濡れるのを防ぐゲイターなどもあります。また、折り畳み傘を持っている人もいます。とても小さくて軽いものもあり、雨が続く日や、夏の夕方、散歩中の突然の雷雨などに重宝します。
暑い季節には、川や湖、海、プールなどで泳ぎたくなるものです。水着を忘れないでください。
スカーフを用意しましょう。首を日焼けから守ったり、寒い日には冷えを防ぐことができます。または軽くて洗濯もしやすいのはバンダナです。帽子はもちろん、日差しを防ぐためにできればつばが十分に広い、クラシックな巡礼者スタイルのものをお勧めします。寒さが厳しいときや、敏感な人は、耳当てがついた毛糸の帽子か、別途イヤーマフを付けて帽子を被り、手袋もつけましょう。
衣類に加えて、重量は増えますが、最近では必須アイテムとなっているのは寝袋です。寝具が料金に含まれているアルベルゲが増えており、多くの場合、使い捨てや布製のシーツに毛布や羽毛布団が用意してあります。しかし、最もシンプルな施設では、寝袋が必要です。
素材は合成繊維が多く、羽毛入りのものもあります。寝袋は季節ごとに分類されています。最も軽い2シーズン用は温暖な気候に、3シーズン用は春と秋に適しており、4シーズン用は零度以下の気温用なので、巡礼路ではそこまで必要ありません。寝袋の種類を考慮すると、夏場は500gの袋で十分かもしれません。中間の季節では対応できる最低温度を予測しましょう(寝袋に快適温度が記載されています。参考にしてください)。いずれにしても、寒い場所では暖房がありますので、1kgを超える寝袋は必要ありません。当サイトでは、山歩きに適したマミー型ではなく、より快適な封筒型が好みです。最後に、夏場の巡礼者の中には、インナーシュラフだけを持ち歩き、寒いときには宿泊施設の毛布を使う人もいます。この方法なら、荷物の重量を減らすことができますね。
布製や使い捨ての枕カバーを持参すると軽くて、衛生面の問題も回避できるので便利です。相部屋の場合、いびきの問題には、我慢できるのであれば耳栓がおすすめです。
携帯電話という多機能な道具がある今、時計、目覚まし時計、GPS、カメラ(写真愛好家の人を除く)、懐中電灯などは必要ありません。問題が発生した場合に備えて、位置情報検出機能を有効にしておいてください。携帯電話は何にでも便利ですが、バッテリー切れに備えて、メモを取るためのペンや鉛筆、メモ帳を用意しておくと安心です。もちろん、充電器も忘れずに。そして、古典的な情報源がお好みなら、紙版ガイドブックをどうぞ。完遂した行程のページは破り捨ててしまう方もいますが(数グラムは軽くなります)、旅の良いお土産となるでしょう。
そしていよいよ、伝統的な巡礼者の印について説明します。まず、ホタテの貝殻(バックパックの見え易い位置に結んだり縫い付けたりすることが多いです)。そして瓢箪、こちらは、小さくて装飾的なものでない限りほとんど見かけなくなりました。また巡礼杖などがあります。杖については、ルートの最初に森を通れば手に入りますし、鉄の石突きがあるものをお店で買うこともできます。頭の高さくらいまであり、かさばって重いという意見もありますが、便利なことに変わりはありません。こつさえわかれば、体重を傾けるのに役立ちますし、登り下りの支えとなり、スリップを防ぎ、道で野良犬がいれば適度な距離に追い払い、暴漢者を撃退することもでき、木から果物を取ることもできます。
Despacio con bordones y bastones, que los carga el diablo! No te vaya a pasar lo mismo que la Jean- Baptiste Lully, aquel maestro músico de Versalles que marcaba con tantos ánimos el ritmo con su bastón que un día atravesó el pie y acabó con gangrena. Vade retro!
巡礼杖の代わりになるのは、ステッキです。木製のものもあり、より大ぶりですが頑丈です。特に伸縮式のステッキは1本でも2本でも収納や持ち運びが簡単です(坂道では前かがみになりがちなので、使い方のこつがわかっていて、うまくコントロールできる人には2本使いの方が力を発揮します)。このようなステッキは、自然な姿勢のバランスを崩し、手首、肘、肩に違和感が出たり怪我の原因になる可能性もあります。また、先端が土の路面用に設計されているため、舗装されている道(ほとんどがそうである)ではやっかいです。
食事に関する情報はまたのちほど説明します。水を入れる小さな水筒。ほとんどの道路に噴水やバルはたくさんあるのですが、水筒はやはり必要です。衛生面を考え、金属製のものか、硬質プラスチック製のものがいいでしょう。1リットルあれば十分ですが、もしも砂漠だらけの行程があったらいけないので(冗談ですが)、小さめのボトル入りの水も買っておきましょう。昔の巡礼者が、ワイン入りの瓢箪を持っていたように、ワインを持ち歩きたい人は、スペインの多くの場所で今も作られている手作りの山羊革の容器、ボタを使うといいでしょう。
鞍にぶら下げたこのボタよ、誰が何と言おうと、あなたは私に夢中で、私はあなたをとても愛している。あなたに千度の口づけと千度の抱擁を惜しみなく与えよう。あなたが水で満たされてしまわないように、あなたを雲に高々と上げるのです!…(ドン・キホーテ)
多目的に使えるスイスのアーミーナイフの方が実用的ではありますが、それなりのポケットナイフがあれば、巡礼者にとっての万能アイテムとなり、そこに基本的な旅行用カトラリーセット(スプーン、フォーク、バターナイフ)と、ステンレス製の鍋があれば、どこにいてもお茶を入れたり、スープを温めたりすることができます。前日に残った食べ物を保管したり、行程の途中で食べたりするために、ミニ冷蔵庫やポータブルパントリーを持っていく人もいます。小さなクーラーバッグでも代用できますが、実際には持ち運ぶほどのことはなく、移動中に使い捨てしていけば良いでしょう。大きすぎず丈夫な布製のショッピングバッグを持っていきましょう。ホステルやアルベルゲの中には、ロッカーを使うのに南京錠が必要なところもありますし、貸し出していないところもあります。
洗面・シャワーコーナーでは、バスルームポーチが必要です。中には、旅の途中で簡単に補充できるように、必要な道具や製品(ジェル、シャンプー、石鹸、またはオールインワンのもの、歯磨き粉と歯ブラシ、デンタルフロス、シェービングジェル・フォームとカミソリ、タンポンや生理用ナプキン、デオドラント、毛抜き、櫛、爪切り、保湿剤など)を旅行に適した形態で入れておきます。タオルは大きすぎず、吸収がよく、すぐに乾くマイクロファイバーのものにしましょう。
虫に対しては、特に蚊の忌避剤が必要かもしれませんし、念には念を入れたい場合は、虫除けスプレーを携帯するのもいいでしょう。ファーストエイドキットについては、ルート上の薬局で必要なものは手に入りますが、先見の明があれば、鎮痛剤、水疱用の傷パッドや針と糸、小さなハサミ、絆創膏、シルクの粘着テープ、ガーゼ、ワセリン、ベビーパウダーや摩擦防止クリーム、ローズマリーのアルコール、消毒剤、抗ヒスタミン剤、避妊薬などを持っていくとよいでしょう。薬を服用している場合は、いつもの量を忘れずに服用してください。
日焼け止めも忘れてはいけません。補充用のボトルと小さめのディスペンサーを常備しておくといいでしょう。また、ティッシュの他、何もない場所で緊急時のために、トイレットペーパーも必要です。サングラスがないと屋外を歩けない人もいます。視界の悪い日に歩かなければならない場合のために、バックパックに貼り付ける反射テープを用意しておくとよいでしょう。
洗濯は、ボディ用と同じものを使うことも可能ですが、提供や販売をしていない場所もあるため、洗濯ジェルやパウダー、ラガルトの固形石鹸などがあるとよいでしょう。また、洗濯物を吊るすための小さめの洗濯ばさみ(常にあるとは限りません)、ロープ(ない場合や寝室に干す場合)、安全ピン(前日に乾かなかった服をバックパックの外側に引っ掛けるのに便利)なども持っていくとよいでしょう。
バックパックの外側には、ウエストポーチ、フロントバッグ、ショルダーバッグなど、それぞれの好みや習慣に合わせて、書類、銀行カード、保険証、現金、携帯電話、ノート、筆記用具、コンパクトカメラなど、必要なものを持ち歩くのが便利です。もし多めに持ってきた現金を隠したい場合は、ベルトやインナーウエストポーチなどさまざまなタイプのバッグがあります。巡礼手帳も忘れずに。
-持って行かなくてもいい物
今では地面に寝ることはあまりないので、マットは必要ありません。また、混雑のため、スポーツセンターや緊急時の宿泊施設などで寝ざるを得ない場合でも、マットを用意してくれます。
夜間に歩くのは全くのナンセンスですから、懐中電灯や頭につけるタイプのヘッドトーチのようなものは必要ありません。
ドレスアップするような洋服や美容グッズも多くは必要ありません。行程を歩いた後は毎晩いつもの生活に戻るのだから、きちんとした服装をしたいと考える人もいます。しかし、それならば、車で、しかも運転手付きで行くようなプランになるでしょう。
自炊のための調理器具を持参することは、とても無駄です。調理器具がないアルベルゲに泊まるとしても、一晩くらいサラダとサンドイッチで済ませても、死にはしません。ポータブルキッチンを持っている人も見かけましたが、ノーコメントにしておきます。
ジャングルの中を歩くわけではないので、例えば缶詰などの予備の食料を持っていても意味がないことはすでに指摘したとおりで、日常的に必要なものはほぼすべて買うことができます。
また、もしかしての危険を考えて、スーパー救急キットを持ち歩くのも意味がありません。週末に田舎や山に散歩に出かけるときには、きっと何も持たずに出かけるほうが多いですから。
2、3日に1度は洗濯をしなければならないと考えてください。汗を取り除くために軽く洗濯して、物干しに干します。ほとんどの宿泊施設には洗濯機と乾燥機がありますので、雨の日には他の巡礼者と合意の上で一緒に使用すると節約になります。このように、洗濯についてもあまり心配はありません。
以上を踏まえて、持っていくものをリストアップします。
-35~45リットルのバックパック。
-ブーツ、トレッキングシューズ。
-トレッキングサンダル。
-シャワー用ビーチサンダル。
-靴下4足
-下着(パンティ、ブラジャー、ブリーフ)の替え3~4枚。
-コンバーチブルパンツ(または長/短ズボンを1本ずつ)
-ジャージや薄手のズボン。
-Tシャツ/シャツ3~4枚。
-寝間着1セット。
-スウェットシャツ/セーター2枚。
-フリース(寒くなりそうな場合のみ)。
-ポンチョやレインコート。
-防水加工のオーバーパンツ/ゲイター。
-帽子。
-バンダナやスカーフ。
-水着。
-寝袋(夏場は寝袋用シーツ)。
-枕カバー。
-携帯電話(カメラとして)。
-巡礼杖、木製の杖、伸縮式の杖。
-ホタテ貝。
-水筒。
-包丁、多目的ナイフ、カトラリーセット、缶切りなど…
-ステンレス製ポット。
-洗面用具一式。
-マイクロファイバータオル。
-ファーストエイドキット。
-日焼け止め。
-ワセリンまたは摩擦防止クリーム。
-ティッシュ、トイレットペーパーなど。
-小さいバックパック、バッグ、ウエストポーチ。
-巡礼手帳、証明書類、カード、現金。
-そして、新型コロナウイルス感染症対策のマスクと消毒ジェル。
さて、今度は体重計に乗せてみましょう。バックパックの重さが6~8kgであれば正しい道を歩んでいると言えますが、10kgに近いか超えているようなら、体力があって重い荷物の持ち運びに慣れているか、真冬の巡礼なので2kgほど重くなっているのでなければ、少し荷物を減らした方が良いでしょう。